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ゆまにて・イメ


『先生☆明日ヒマですか?』
『ん?なんだ、何か用か』
『明日の放課後裏庭にちょうっと来て頂けませんか?』
『…お前、一体何企んでやがる?』
『アハハハハハハ。先生ったらいやだ。何を根拠に企むだなんて』
『お前の頼みは八割六分の確立で怪しい内容だ。数学の先生と一緒に計算したから間違いない。』
『あら、倉持先生ったら。何時の間に黒崎先生とそんな仲に。本当に用があるんです!先生に見せたいものがあるんですから、私!本気ですよ!』
『そうかいそうかいわかったよ。明日裏庭だな。』
『ちゃんと来て下さいね。もし来てくれなかったら先生の誕生日にラブ・レターと手作りクッキー下駄箱に詰めるだけ詰め込みますからねー!』
『一体いつの時代だよ・・・。』




『じゃあ先生、またあしたー。』


『おーう、明日な。』









「明日、か・・・」














ゆまにて・イメ













「先生、正直に言って下さい。恋煩いですか?借金ですか?職員内のイジメですか?

とにかく、何があったんですか?


「な、なんだよ国光。見舞いに来たと思ったら突然・・・。」
「先生、僕たちの仲を忘れたのですか?一緒に旅行に行きましたね。一緒にお風呂に入りましたね。二人で飲んだイチゴ牛乳はおいしかったですね。あの時あの味を先生は忘れたのですか??」
「誤解を招くような言い方をするな!!第一あれはオフか会で他にも人がいたし日帰りだっただろうが!」
「でもっ!僕たち、普通の教師と生徒の関係ではないですよね。現に先生、僕の担任でもないのに僕のこと家に招いてくれてるし!!」
「だあああぁ!!どーしてお前はそんな言い方しかできないんだぁー!!!」

先生は頭を抱えて他にも色々叫んでいるけど、まぁそれは省略。
あ、先に行っておきますけど。僕にはBLの趣味は一切ありませんからあしからず(笑
目前にはまだ色々喚いてるパジャマ姿の先生。
ここは先生の自宅。そして、学校帰りの寄り道という校則違反を犯しつつも、先生の為にあえてそれを破る、出されたお茶を戴きながら夏の制服姿(青いセーラーと半ズボン)でニコニコと笑う僕。
もう一度言っておきますけど、

ぼくは健全な小学生ですから!





黒崎先生は今年僕たちの学校に赴任してきた。だけど、僕たちはそれ以前に知り合いだったりする。
僕たちは、海洋生物大好きサイトのチャットで知り合いオフ会で初めて顔を会わせた。初めて会った時の互いの第一印象は「驚いた」。先生は僕が小学生だということに。僕は先生があまりにも若いということに(四十代軽く過ぎてると思ってた)。
会って、海で泳いで、海洋博物館に行って、熱狂して話し込んで、
やっぱり海亀が一番だという結論に達して別れた。
それからも先生とはメールやチャットで連絡を取り続け、交流は深めていった。次にあったのは今年の四月。始業式の新任教師紹介で、実験補佐教員として黒崎先生が紹介された時。
「ネット友達」が急に「教師」になるなんて。本当、人生ってわからないよね。
先生は最初からみんなから慕われてた。
実験も話すことも面白いし、博識だし、なによりユーモアがあって魅力的だった。
僕の学校は幼小中高大院と一貫教育の「エリート」学校らしくて、特に幼等科、初等科には比較的裕福な家庭の子が多い。
だからそれだけ、礼儀作法や身だしなみには徹底している。勿論、先生方も。
それなのに黒崎先生といったら、皺だらけの白衣に無精ひげで廊下を闊歩しているのだもの。最初は本当に見ていて冷や冷やしたよ。
まぁ、結局その豪快な性格が子どもの心を掴んだけど。先生も、毎日生徒に囲まれて楽しそうだった。
その先生の様子が変わったのは、六月も半ばの頃だった。
目の前には一通り喚き終えて、僕の前で胡坐をかく先生の姿。
目には隈がくっきりと浮かび上がり、目は充血している。
赴任当初より痩せて、顔なんてやつれて青白い。
トレードマークの無精ひげすらも、今では痛々しくすら感じられる。
先生、本当に、何があったの?


先生の様子がおかしいと気付いたのは 朝学校ですれ違った時だった。
「おはようございます、先生」
「おう。今日も朝早いな」
何の変哲も無い、朝の会話。
違和感を感じたのは 先生の残り香。
煙草の、臭いがした。
先生は学校で煙草を吸わない。
「ガキがうじゃうじゃいる校舎で煙草が吸えるか!」と言い、白衣にも徹底して煙草の臭いが付かないようにしている。
何かあったのかな。その日は、その程度にしか思わなかった。
だが、その日を境に、先生からはいつも煙草臭が纏わりついていた。
顔色も日に日に悪くなっていき、それと比例して寡黙になっていった。
そしてこれは何かあるとみた矢先の療養休暇。もう三日も休んでいる。
そして今日。今の現状にいたる。







「実はさ。あんま、言いにくいんだけどよ…」
遂に先生は観念してポツポツとだが、僕に話し始めた。
ん?喋らせる為に何をしたかって?別に何もしてませんよ。ただ先生に、
「これ以上口を割らない気なら先生の家の前で

『僕を捨てるのですか?!先生!僕との関係は遊びだったのですか!信じてたのに…信じてたのに!せんせいー!!!』

と泣き叫びます。僕は本気です」
と言っただけ。うん。

話を先生の告白に戻そう。
「最近、眠れないんだ。眠れてもせいぜい一、二時間で目が覚める…。それも、悪夢にうなされて。」
「悪夢?どんな夢ですか?」
悪夢と言う言葉に僕は素早く反応した。
「それが…夢の内容はほとんど虚ろで…ただ、目覚めた後、なんか変な言葉ばかり覚えている。」
「どんな言葉ですか?」
「それが…『腐ったミカンはあっても腐った人間はいない』とか、『人は人生と言う名のリレーを走っているんだ』とか…。他にも『苦悩と言うトンネルを抜けた先にある幸福の花園へ、貴方と一緒に行けたら』、『例え最期の瞬間が訪れても、瞳に貴方の姿が映っていれば全てを受け入れられる』とか」
「……せんせい?」
「いや!俺だってわかんないんだよ。だが、全身汗びっしょりで起きた後、このような言葉が頭から離れないんだ。それからなんだか眠るのが苦痛になってよ。本当にどうしちまったんだか…」
「せんせい…」
先生は本当に悩んでいるようだ。やはり眠れないというのは肉体的にも精神的にもかなりの苦痛らしい。
先生を助けなきゃ!そう僕は固く決意した。






「…で、早速僕の所へ来た訳、か。わざわざ訪ねて来なくても、以前君にあげたマッチの火を灯せば僕の方から来たのに。」
「いえ、セーチさんがよくここででお茶を飲むのを知ってましたし、ここまでならどうにか僕でも来られるので。」
そうかい、それならいいが。そう言いセーチさんは悠然と紅茶を飲んだ。僕はいつも、そんなセーチさんの姿に黒崎先生とはまた違った憧れを抱いて止まないのだ。
セーチさんには今までに二度会い、二度とも僕の危ないところを救ってくれた、いわば命の恩人だ。
初めて会った時、僕はまだ四歳だった。その時僕は自分でも知らない内に悪夢に囚われていた。
毎夜毎夜「夢を見ない」夢を 見続けていた。

夢の中で僕は 夢を知らないまま育っていった。
一度の夢を見ないまま
「夢」という言葉の存在すら知らぬまま
僕は小学生になり
大学を卒業し
就職し
結婚した。
ただただ言われるがままに働いて
楽しいことも 辛いこともないまま
気がつくと よぼよぼのおじいさんになっていた。
そして遂に 人生の最期の瞬間。
僕は 冷たい床に横たえられていた。
目を開けるとそこには 僕の妻、子ども、孫達
みんなが 僕を冷たく見下ろしていた。
目線を下にずらすと 皺だらけの僕の手が見えた。
ああ これで人生が終るんだ。
そう思い 僕は目を閉じた。
死神が僕の所へ歩いてくる音が聞こえる。
足音が止んだ。僕の、すぐ側にいる。
鎌を振り落とす音。それで僕を殺すんだ。
僕が、終る。
その瞬間 全てが光りに包まれた。


「やぁ、危なかった。君、将来大物になるね。僅かこの歳でこんな壮大な悪夢に憑かれて。しかも一回人生経験したしね。」
目を開けると、そこには小さくてツルツルの僕の手があって
目の前に 男の人が立っていた。
「ごちそうさまでした。おいしかったよ」
男の人はそういうと 悠然と微笑んだ。
「それに 君のおかげでレベルアップできたしね。」
それが セーチさんとの初めての出会い。

次にあったのは二年前。僕が十歳の時。僕は毎晩夢を見ていた。
どれもこれも 僕が望むままの夢。全てが僕の思うがままの 僕だけの王国。
夢の中で僕は毎晩自分の理想を実現していった。
空と海が混ざった理想郷。
ウミガメは宙を舞い
クジラは月とデュエットする。
僕は 僕の夢をどんどん広げ
ある日
夢には「限度」があることを知った。
限度、と言うと、御幣があるかもしれない。
人の夢に限りは無い。人は無限に夢を見る事が出来る。
ただ、その体積には限りがある。
一つの魂が持つ夢の空間は一定の広さが決まっている。その空間内で人は夢を見、夢の密度はその日と次第で濃くも薄くもできる。ま、大抵の人は体積どころか、面積すらいっぱいにすることはできないが。
その空間を抜けると、その先には他の人が持つ夢空間がある。
その事実を知った時、僕は他の人の夢を見たくなった。
空間端まで行く。薄い膜の壁が広がっていた。
夢がその膜を抜け、外に漏れることはない。
だが、夢を見る本人が、自分の夢から抜け出すことは決して不可能ではない。
果たして、僕は、夢の空間を抜け出すことに成功した。
一つ失敗だったのは、脱け出したその先に他者の夢空間が広がっていると勘違いしていた事。
夢空間の間には次元の歪があった。暗く、深い、「夢の杜」
夢魔がうろつく歪の中に、魂だけの人間がうろついていたらどうなるか。
案の定僕は あやかし達に取り囲まれてしまった。
そこを助けてくれたのが またしてもセーチさんだった。
「やあ、また会ったね。」
一通り夢魔達を胃袋に収納し終わった後セーチさんはそう言った。
食事のお礼にとセーチさんは僕を食後のお茶に招待してくれた。歪に生えた菩提樹の樹の下。ここはセーチさんのお気に入りの場所らしい。既にお茶の準備が整ったテーブルがあった。
「やはり君は大物になったね。夢空間を把握してしまうなんて。でももうこの歪へ来てはいけないよ。君は「夢喰い」でも「夢わたり」でもない、人間なのだから。」
紅茶を口に運びながらセーチさんは言った。
「だが君は 夢をうまく操る法を覚えた人間みたいだね。珍しい。そんな君にはこれをあげるよ。また、僕と会えるように。」
差し出されたのはマッチ一箱。
「僕に会いたくなったらマッチを擦ってご覧。その火を灯す為、僕は君の所へ向かうから。」
そこで夢は覚めた。その日を境に僕は自分の浅はかな行動を後悔し、物事をよく考え、的確な行動を取るよう尽くした。
夢のマッチを 大切な宝物にして。




感動的な物語から、話を元のコメディタッチに戻そう。
「そうか…毎晩悪夢を。」
「はい、それで先生はすっかりやつれてしまって、一体どうしたものかと」
「しかし…そんな一昔前の青春ドラマの台詞ばかりの悪夢とは…正直僕も初めて聞いたなぁ」
「ええ。僕も驚きました。」
やっぱり。まいったなぁ。
そうセーチさんはいつものように微笑み、少し考えるような動作を取ってから言った。
「よしわかった。引き受けよう。但し一つ条件がある。」
「条件?」
「そう、それは…」







「ちょっと待て!国光、これは、一体何の真似だぁ!」
「落ち着いて下さい先生。大丈夫です。僕が必ず先生の悪夢をなぎ倒し、

先生を安らかな眠りの楽園へいざなって見せます。


「お前何凄まじい台詞大真面目で言ってるんだよ!いやだ、俺はまだ死にたくなあぁい!!」

昨晩セーチさんに会い、目覚めた僕は早速準備に取り掛かった。
予め今日は先生の所へ泊まる事をお母さんに言い、着替えと赤い糸を持って登校。
学校が終った後まっすぐ先生の元へ。
そして再び夜。今現在に至る。

「大丈夫です。落ち着いてください先生。先生は死にません。僕と一緒に生きるのです。」
「それもなんか嫌だぁ!せめてこの指の赤い糸を解け!」
「駄目です。こうしないと先生の悪夢退治が出来ないのです。ここは先生諦めて小指に赤い糸を結んだまま眠ってください」
「なんでお前と小指赤い糸で結び合って眠らなきゃならないんだ!第一左薬指にも赤い糸結びやがって!これは一体何の意味があるんだ。」
「夢の中で全てがわかりますから。とにかく先生、今日は一緒に眠りましょう。僕が大声で泣き喚かない内に。」
「……わかったよ。今夜はお前を信じるよ。

あー、チキショー!!!








                                                        後半に続く。
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