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ゆまにて・イメ 外伝2


「ねぇ、セーチさんて、現実の世界には来れないのかしら?」
始まりは、そんな些細な一言。


ゆまにて・イメ 外伝2―セーチさんの使い方―


それは、僕の卒業式も無事終わり、まひるさんも進級が決定し、
久々に三人で黒崎先生の家に集まり、お昼ご飯(黒崎先生の手作り)を食べていた時のこと。
ふいにまひるさんが言い出したこの一言で、ことは始まった。
「あ?お前イキナリ何言っているんだよ。」
「だって、私と黒崎先生の結婚式には是非セーチさんを呼びたいじゃない?ダーリン。」
「ブハッ!!」
まひるさんの「ダーリン」発言に黒崎先生は激しく咳き込んでいる。
うん、何時見ても飽きないな。このカップル。
「カップルじゃない!!大体セーチは夢渡りなんだから、夢の世界でしか生きられないんだろ?!」
「でもでも、セーチさんは元々は日本に暮らすれっきとした日本人だったのよ!私にそう話してくれたもの。先生についての愛の相談にのってくれた時。」
だからなんなんだよその愛の相談ってー。
溶けそうな先生をよそに、一度始まったまひるさんのマシンガントークは止まらない。
「セーチさん言っていたもの『弟がいるんだ、今はもう会えないけど』って。だから私それに対してセーチさんに『だったら弟さんの夢に入れば会えるんじゃないですか?』って言ったの。そしたらセーチさんは首を横に振って微笑んだのよ?
名前、セーチさん。職業(?)夢渡り。日本人で弟一人。
セーチさんの情報ってこれだけしかないぢゃない?だから私セーチさんにあれこれ色々質問したのよ。でもセーチさんは微笑むだけ。微笑むだけなのよ?微笑みの貴公子狙っているのかしら。韓流…?ぺ様…?似てないけど実は狙っている…?
とにかく、セーチさんに現実の世界で会えたら素敵だなー、両手に花だわーvvって思ったのよ!!」
最後の発言はちょっと問題だが、確かに。セーチさんに現実の世界で会えたら、一緒に水族館へ行ったら、入学式を見てもらえたら…。
素敵過ぎる…。
よしっ!ここはセーチさんに聞いてみよう!



「現実の世界へ?僕が??」
僕の発言にセーチさんは一瞬目を見開き、でもまたすぐに元の微笑みに表情を変えた。
…微笑の貴公子…。
「でも、セーチさんは元々は僕たちと同じ世界で暮らしていたのでしょう?弟さんもいるって。」
「ああ、弟か。うん、いるよ。今はもう会えないけど…。」
そう言い、そっとセーチさんは目を伏せた。いけない!僕何か悪い事いっちゃったのかな。
「…ごめんなさい。」
僕の言葉にセーチさんは微笑む。
「いや、アキラ君はなにも悪くないのだから、謝ることはないよ。ちょっと昔を思い出していただけだから。」
そう言い、セーチさんはお茶を飲む(今日のお茶はアップルティーだった)。
「アキラ君の申し出は正直嬉しいよ。ただ、僕はもう現実の世界へは行けない。何故なら…」
なぜなら?
「何故ならば…僕は現実の世界へ行くと

溶ける

んだ。」
とける。溶ける。MELT.メルティ・ラブ。
・・・・・・。

「ええー!!」


「しかもペットボトル一本分に。」
すくなっ!セーチさんが1.5kgになるの?軽過ぎだよ!!
「それって本当なんですか?セーチさん。」
「ああ、本当だとも。僕が嘘をついたことがあるかい?」
「それは…」
「だから、諦めてほしいんだ。わかるよね?」
そう言い、貴公子はその名の通り、太陽の微笑を僕に見せた。

**

「やれやれ、相変わらず、可愛いなぁ、アキラ君は。」
微笑みの貴公子は微笑む。微笑む。
カレンダーを見ながら。
カレンダー。それは、今日という日を「四月一日」としていた。
「アキラ君、僕は君に嘘はつかない…。でもね、ちょっとだけからかったりは、するんだよ…?」
微笑みの貴公子は微笑む。微笑む。
そして、微笑う。



終わり




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